『あぶく銭師たちよ!昭和虚人伝』にはリクルートの江副、代ゼミの高宮、フジテレビの鹿内、地上げの帝王の早坂、そして細木数子がどのように表舞台でのし上がってきたのかを書いた本。今回はその中で代々木ゼミナールの高宮行男を取り上げたいと思う。
予備校御三家と言えば「代々木ゼミナール」「河合塾」「駿台予備校」である。浪人生の半分以上がこのどれかに通い、データ収集戦争の激しい大学受験を乗り切ろうとする。受験指導はその昔は地域にある中小予備校で行なわれることが多かったが、共通試験が実施されるにつれ膨大なデータをコンピュータで処理して合否の確率をはじき出す必要が出てきた。全国各地でこれら大手予備校が進出し、他の予備校を廃校に追い込む(または系列化におさめられる)様を『あぶく銭師たちよ!昭和虚人伝』では予備校業界における予備校戦争と表現している。
親と子供
予備校の講師に必要な素質は何より子供を合格させる指導力なのであるが、芸者・学者・易者の役割を兼ねるのが予備校講師の要諦らしい。生徒の人気を集め、勉強を教え、的確な進路指導をするタレント性を持つ講師が「講師の代ゼミ」の強み、高宮の役者たちであった。ラジオの受験講座の先生、有名参考書の著者、一流大学のタレント教授等の顔ぶれは若者の心をキャッチさせた。気の滅入った生徒にイベントを打ち、ホテルがかすんで見えるような立派な建物を提供する。予備校生の授業料を払うのは実際のところその親がほとんどである。受験生のストレス対策のための精神科クリニックを備えた学生寮やコンピュータの導入で出席状況はもちろん模試の成績を各家庭に送付されるシステムは大事な息子や娘を送り出す親にとっては代わりに子供達を管理してくれる素晴らしい役割を担ってくれていた。これが代ゼミ流親身の指導なのである。親は自分の子供にはできるだけ良いとされるハイレベルな学校に行って欲しいものである。日本で生活していると家族構成を知り尽くしたようなダイレクトメールが送られてくることに驚くが、受験生の自宅にはこれでもかこれでもかというほど予備校からの誘いがくる。代ゼミはそして他の予備校もデータを買ったり調べたりしているのだろう。メディアによる宣伝効果も手伝って誘いにのった生徒のデータは蓄積されコンピュータ占い同様に合格する「率」まで確かめられるようになった。このデータを持ってすれば進路指導は簡単である。無理な大学受験をやめさせ不相応な大学へ誘導するだけである。予備校は学力をあげるべきところであるというよりは、合格可能な大学への安全性を確保する場所となっているのであろう。また特待生制度(成績のいい生徒は授業料を免除したりする)によって集まった優秀な者たちを広告に使うことも忘れない。これは今でもいろいろな塾や予備校に使われている手ではないだろうか?特待生や優秀な生徒でその他大勢を釣り、お金を払う構造である。
高宮行男
『あぶく銭師たちよ!昭和虚人伝』の著者佐野眞一からは「利殖としての予備校・高宮行男の貪欲」とサブタイトルで取り扱われ、 また全体主義者、ヒットラーやムッソリーニを思わせる覇権思想の持ち主で代ゼミの全国制覇を狙ったと中小予備校の講師から名指しされた代ゼミの代表高宮行男とはどういう人物なのだろうか?予備校経営者の多くは教職員出身だが、高宮の経歴は異色中の異色...質屋の番頭、パチンコの釘師、キャバレー等である。事業欲旺盛な義父が予備校でひとヤマ当てようとした不二学院の会計を任せられ、勝手に高宮学園として支配していった。代々木ゼミナールと名前が変更するのは高宮の狡猾なアイディアマンとして才能の一つであった。繁盛している隣に立つ老舗予備校「代々木学院」の名前をそのままパクって生徒を吸引したのである。高宮のアイディアはスロープ式の教室や二段階に上下可能な黒板、紙の裏まで使う指示など他のセンセイには予備校「経営」において歴然とした差がある。
約束破りの常習犯
代ゼミの強引な進出の犠牲者は生徒が激減した地元の予備校であった。学校法人として学事課が認めなければ株式会社としてでもやってみせるという高宮は、基本的に学事課や県議会の意向などほとんど無視をする。例えば福岡県私立学校審議会は代ゼミの申請した定員1827名を750名に削減し生徒募集を認可。ただし「開校の認可は募集のあり方をみてから下す」という付帯条項つきの認可である。ところがこれは守られず750名を遥かに超える生徒を集めたのである。代ゼミは別科とかグリーンコースとか抜け道を作って認可定員は守るという約束を破り続けていた。進出を規制するような法律はなかったので審議会としても認めざるえないのである。教育の自主制を重んじる建前、学校法人の経営を規制することができなかったのである。そして他の予備校との文書を取り交わさない約束はことごとく破られていった。代ゼミ新潟進出時に新潟ゼミはその負債約1億3千万円の肩代わりと同校の講師・職員の代ゼミ採用の処遇を約束され、代わりに約4000㎡の土地を無償提供した。ところが代ゼミは5名の職員を採用しただけで他の条件は履行されなかったのである。
アラブ人も元々は契約書などをしっかりと残す文化でなかったのでまさかオイルで裕福になったとたん外国人が商売に現れて口約束を破られかなり騙された。日本の契約書もあいまいな表現が多く、アメリカの分厚く厳密にトラブル発生時を想定して作成されたものと違い「話し合い」で決めようとするものが多い。相手を信用することで成り立つ約束は守らない...それが代ゼミのやり方弱肉強食であったようである。トラブル発生時の解決策が契約書に書かれていないために痛い思いをすることがあるのに文書なしの口約束では平気で破る人間がいるということを忘れてはならない。ただし文章でしばられないとお互いに信頼できない相手と取引するのも平気で約束を破るのもどうかといえるが...。
学校法人
(代ゼミは多数の予備校を廃校に落としたのであるが)学校法人が廃校に追い込まれた場合、経営者は勝手に処分できないことになっている。その土地や建物は国庫に最終的に入ってしまうので高宮はその財産を保全するために三鳩社というものを設立している。三鳩社は社長や役員以下全てが高宮一族の同族会社であり、三鳩社所有の土地建物に代ゼミの校舎が建つのである。このほか、日本入試センターや代々木ライブラリー等いくつかの関連会社を使用することで巧みに利用する。これは財産の面ばかりでなく、学校法人の設置申請の時にありがちな工事前の地元予備校の反対をかわすことにも利点があった。しかしまたこれも、法律違反を起こしたわけではない。教育にたずさわる者はそういうようなことはしないという行政判断の甘い規制をすり抜けた行動である。



