「真実になるには上出来過ぎ!」というイギリスの新聞ガーディアン紙で紹介された10大捏造科学ともいえる事件を紹介。最近話題の中国や日本の詐欺や捏造はランクインしていないが、どれも世界を騒がせた話である。
①ピルトダウン人ミステリー
1912年11月アマチュア考古学者のCharles DawsonはイギリスEast Sussex州Piltdownでピルトダウン人またはドーソン人(学名Eoanthropus dawsoni)と呼ばれるヒト属の大きな頭蓋骨を発見 した。人類は顎から進化し、脳の容積が増大するはずだが、ピルトダウン人は顎が猿に近く頭は人間に近かった。もちろん北京原人やジャワ原人といった発見済だった同時代のホモ・エレクトスより脳が大きかった。ところが奇妙に思うどころか、当時はヨーロッパ人の先祖が賢かったことの証明として絶賛されたのである。しかし1949年大英博物館でのフッ素に基づく年代測定や1953年オックスフォード大学による詳細な年代測定や調査で人類の祖先とはいえない新しい人骨とオラウータンの加工された下顎を組み合わせた偽造化石であることが判明した。発見から40年1916年にドーソン自身は死去しているし、発見当時の主要関係者の殆ども他界していた。人類学・古生物学上での大スキャンダルとして捏造の犯人探しのミステリーが話題となった。ドーソン単独説や共謀説、隣人アーサー・コナン・ドイルが関係しているというのもあるらしい。イギリスの科学雑誌ネイチャーでは発見された遺品からMartin A.C. Hintonが真犯人説を掲載。
②原始人タサダイ族
文明社会から完全に隔絶されたままの部族など現在いるのだろうか?地球上にはもうフロンティアなどないのではないか?1960年代後半、世界中のメディアはフィリピン・ミンダナオ島でTasadayと呼ばれる原始人を発見したことに注目し現地に取材陣を送り込んだ。ダサダイ(タサディ)族は26人で構成され「武器」や「敵」といった争いの言語を持たない『愛の民族』として人類学の奇跡として瞬く間にメディアを虜にした。生活様式は洞窟に住み、石器を使い、木で火を起こすという原始人スタイル、環境大臣Manuel Elizalde, Jr. はタサダイ族を文明に汚染されないようにと 欧米の多くの著名人から多額の寄付金を集め約190k㎡の広大な保護区を設置。そこを立入禁止の居住区にした。ところが1986年マルコス政権が崩壊後、スイス人ジャーナリストのOswald Itenと現地ジャーナリストのJoey Lozanoの2人は無許可で保護区へ潜入。Tシャツにジーンズ、煙草を吸ってバギーに乗るタサダイ族を再発見。なんとタサダイ族はヤラセだということが判明し、一番近い村から徒歩3時間の場所で交流が一切なかったことや交流なしでの同系交配の回避、貝塚のような生活痕が無いことなど数々の不自然さが指摘された。独特の言語と言われた愛のタサダイ語も単語の85%以上が近隣部族と同じだった。結局タサダイ族の人々はエリザルデと共謀を認めたが、エリザルデはマルコス政権崩壊前に中米コスタリカに寄付金US$35,000,000を持ち逃亡。金を使い果たしてドラッグ中毒状態で1988年フィリピンに戻ったが何の追及もされずに1997年に死亡した。
20世紀に現れた旧石器時代人タサダイ族 『虫の雑学 タサデイ』より1973年日本の科学雑誌で紹介されたタサデイ③人工ミステリーサークル
私が小学生の頃は「モルダ~、スカリ~」でお馴染みのXファイルが流行っていたし、TVではUFOやミステリーサークルの謎が盛んに取り扱われていたように思う。ミステリー・サークルとは、イギリスを中心に世界中で報告されている穀物が円形に倒された跡のことで次第に円が複数組み合わされた形状や長方形直線など複雑な形状のものが増えた。英語ではCrop circleと呼ばれ、日本でもUFOが着陸した跡だと大きな話題となった。ところが、イギリスでよく見られるミステリー・サークルは宇宙人の仕業ではなく自分達が作ったのだと1991年9月にイギリスのトゥディ紙でDave ChorleyとDoug Bowerが告白。彼ら2人組の老人は簡単な道具で比較的短時間で作れると実演したため多くのオカルトやSF的な諸説は消えていった。ケンブリッジ大学近辺のミステリーサークルも数学者Benoît B. Mandelbrotの研究仲間が作成したと証言している。CAD用いて設計すればそう難しいものでもないようで、農場の持ち主が宣伝のためにサークル作成を依頼したり、独創的なサークル作成のコンテストが行なわれたりしていた。
④サー・シリル・バートのIQデータ捏造
遺伝の優位性を唱えた心理学者Sir Cyril Burtは自らの信念を説得させるために双生児の知能研究で架空の共同研究者を仕立ててデータを捏造した。親からの遺伝というものは確かに存在するが、まったく調査もしないで遺伝的要素が知能の80%を決定していることを世界中に広めたのである。常識的に考えても一卵性双生児でしかも離れ離れに暮さざる得なかった環境の人々を集めデータを集めるのが当時(現在でも)簡単ではない。この捏造データは捏造だと発覚して50年以上たっても優生学を基盤にする教育制度に影響をもたらし続けている。 この捏造データが本等で引用されるケースもある。日本でもハンセン病や遺伝性疾患以外に精神病、精神薄弱も断種対象にした法律があったように、要は優秀な人間の子供が産まれ生き残るべきであって、劣性の者を絶やすべきだということである。ヒトラーによるユダヤ人絶滅運動や長身・金髪碧眼の結婚適齢期の男女を集めて強制的に結婚させたことは有名であるが、アメリカにおける、「劣等人種の移民が増大することによるアメリカ社会の血の劣等化を防ぐ」優生学政策はもっと長い。子供は親の影響を受けることには同意見であるし、遺伝はバカにできないほど多くのことをもたらすが、経験そして反復演練も教育にとって大事なことだ。科学の授業で「算数は遺伝しないから問題をたくさん解かないとダメだし、算数を全然教えなければいくら計算の得意な親の子供でも得意にならないだろう」と言っていた先生がいた。ノーベル賞受賞者の精子バンクというものがあるが、ノーベル賞科学者の精子を元に子供を生んでも、同じノーベル賞科学者は生まれなかったようだ。ただしモデルになれるような子を産みたいのに短足でデブとの間に産もうとしても難しいように、そういう意味での需要がまだまだあるようだ。「勉強しないとバカになっちゃうよ!」というのに勉強しているはずの科学者が捏造をしてしまうというのは何だか矛盾を感じるところでもある。欧米では科学者はカッコいいイメージだが、日本の子供の憧れの職業に科学者はない。むしろ科学者にはなりたくない子供が増えているようだ。
⑤ベル研究所データ改竄
Bell System社の研究開発部門として設立されたニュージャージー州のベル研究所は通信網の構築以上の多くのものを開発した。この有名な研究所の分子サイズの電子部品を作るナノエレクトロニクスの分野で注目されていた研究者Jan Hendrik Schönによって1998年から2001年の間に少なくとも16回もデータを捏造、改変していた。研究者の間からは実験結果が再現できずにJan Hendrik Schönを疑う声が上がり、5名の有名な科学者や技術者を集めた調査委員会を発足し、それらの捏造は発覚した。データが改竄された研究の中には、Jan Hendrik Schönや数名の科学者による超伝導(超電導)、分子電子工学、分子結晶の研究が含まれ、その研究結果は既に有名な科学誌サイエンスやネイチャーにも掲載されていた。Jan Hendrik Schönの研究に参加したり研究報告書の手伝いをした約20名の研究者は調査委員会によって潔白だと判断されたため、ベル研究所はJan Hendrik Schönだけの解雇が決定した。ベル研究所では「新しい研究成果を公表する前に、内部で討論したり他の研究員が再検討したりする機会を奨励」また「すべての研究レポートに目を通す責任を監督責任者に明確にする」などの不正を防止用の対策を取っている。つい最近ではソウル大学の黄禹錫教授をめぐる胚性幹細胞(ES細胞)の論文不正があったが、ミステリー・サークルをイタズラで作るのとは違って学問的な不正は多くの人をがっかりさせる。一度持ち上げられて落とされるというのは、単に不可能なことが続くよりも辛い。



