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持続可能な文明(1)人口増加の抑制

人類文明を持続可能にするには、(1)人口増加の抑制、(2)植生の維持と回復、(3)再生可能エネルギーの利用が必要である。三つの課題に対する私の提案を三回にわたって連載することで、本シリーズ「資源問題と環境問題への解決策」の結論としたい。今回は、まず人口爆発問題を取り上げる。

1. 現代の資源問題と環境問題の根本原因

現代における資源の枯渇リスクの増大と環境汚染の深刻化は、根本的には、産業革命以後急激に増大したエネルギー消費によってもたらされている。

Jean-Marie Martin-Amouroux, IEPE, Grenoble, France, private communication (2003); BP Statistical Review of World Energy 2004.
急増する世界のエネルギー消費量。バイオマスエネルギーは横ばいだが、産業革命以降、化石燃料の消費が急増している。[HYDROPOLE:Data from Jean-Marie Martin-Amouroux, IEPE, Grenoble, France, private communication (2003) BP Statistical Review of World Energy 2004.]

エネルギー消費量は、人口と一人当たりのエネルギー消費量によって決まるのだから、エネルギー消費量を減らそうと思えば、このうちのどちらか、または両方を減らさなければならない。

一人当たりのエネルギー消費量は、技術革新によりエネルギー効率を高めるなど、生活の質を下げることなく、ある程度までは下げることができる。エネルギーの消費が生み出す高エントロピー廃棄物が環境に与える負荷を最小にする上でも技術革新は重要な役割を果たす。技術革新が、資源・環境問題の解決に必要であることは言うまでもない。だが、技術革新に過剰な期待を持つことは禁物である。特に、エネルギー消費の総量を減らそうと思えば、人口を減らさなければならない。

以下のグラフが示すように、世界の人口は、産業革命以降、爆発的に増えている。技術革新による生産力の増大と医療の発達による平均寿命の延びが、多産多死社会を多産少死社会にした。この人口爆発が持続可能でないことは明らかである。資源問題と環境問題を解決する上で、最初に必要なことは、多産少死社会を少産少死社会にすることである。

出典:国連人口部「World Population Prospects: The 2004 Revision」(2005年)、同「The World at Six Billion」(1999)、他
20世紀以降、爆発的に増加した世界人口
[UNFPA(国連人口基金)東京事務所世界人口推移グラフ]

2. 改善しつつある人口問題

幸いにして、人口増加率は、1960年代後半以降減少している。1970年代以降、先進国では、少子化が顕著に進んでおり、日本でも、1973年をピークに、新生児数や合計特殊出生率が下がりだした。

World Population Information
世界の人口増加率の変遷。1960年前後に大きく落ち込んでいるのは、1958年から始まった毛沢東の大躍進政策の影響である。[International Data Base (IDB) - World Population]

世界人口の増加数も1990年以降減り続けている。下の図には、世界人口のグラフも赤線で書き込まれているが、このまま順調に人口増加数が減り続ければ、世界人口は、S字型のロジスティック曲線を描いて、人口増加を停止させるだろう。

United Nations, 1999, The World at Six Billion
世界人口の毎年の増加数(棒グラフ,目盛りは左軸,単位は百万人)と世界の人口(赤の曲線,目盛りは右軸,単位は十億人)[Historical Estimates of World PopulationUnited Nations (1999) The World at Six Billion]

3. 知識集約的経済は人口を減らす

世界の人口増加率が減少しているのはなぜだろうか。通常のロジスティック・モデルは、生物の個体数が環境収容力に近づくことが、個体数の増加に歯止めをかけると説明するのだが、現在の世界の人口増加は、餓死者の増加によってというよりも、むしろ餓死とは無縁の先進国における出生率の低下によって抑制されている。では、先進国で出生率が下がっている原因は何か。

日本の夫婦は、教育コストの高さゆえに、子供をあまり産みたがらない。韓国、台湾、香港、シンガポールといった教育熱心な東アジア諸国でも事情は同じで、これらの国々の合計特殊出生率は、日本よりも低い。低学歴社会の発展途上国では、子供は、早い段階で労働力として使われるので、子だくさんに経済的メリットがあるが、高学歴社会の先進国では、子だくさんはむしろ経済的デメリットである。ゆえに、社会の高学歴化は、人口減少をもたらす効果を持つ。

また、高学歴社会では、就学期間の長さゆえに、晩婚化が進む傾向がある。女性の場合、生殖能力がある期間は限られているので、晩婚化は合計特殊出生率を下げることになる。世界的に見て、女性の教育水準と合計特殊出生率との間には、負の相関があることがわかっている。以下の図を見ても、学歴が高くなるにつれて、合計特殊出生率(total fertility rate)が下がる傾向があることがわかる。

Women's education and family size in selected countries, 1990s (Population Reference Bureau 2001).
7つの発展途上国における女性の教育と家族の規模の関係。各国の左の棒グラフは、学歴なし、中央の棒グラフは、初等教育修了、右の棒グラフは中等教育修了の女性の合計特殊出生率。[Center for Global Geography EducationPopulation Module - Lesson 3]

教育は性欲を学問や芸術に昇華させる。平均的なIQのティーンエイジャーよりもIQの高いティーンエイジャーのほうが、セックスやキスをしないという調査結果[Smart teens don't have sex (or kiss much either)]から判断しても、知的活動は性的活動を抑制する傾向があるといってよいだろう。先進国のように情報産業が発達している社会では、娯楽が多様化するので、性的関心は相対的に低下する。また、日本の萌えオタクのように、性欲をバーチャルな対象で満足させてしまう人々も増えている。今後、世界的に、リアルな世界に遺伝子(gene)を残すよりも、バーチャルな世界に文化的遺伝子(meme)を残すことに熱心な人々が増えるだろう。

こうした様々な原因で、低学歴社会から高学歴社会への、労働集約的経済や資本集約的経済から知識集約的経済への移行は、出生数を減らす。人類が特に意図したわけでもないのに、自然と人口問題は解決しつつある。まるで自然の摂理が働いているかのようだ。先進国の中には、少子化に危機感を抱いて、様々な少子化対策をしているところもあるが、人口増加が人類の絶滅の危機を高めていることを考えるならば、少子化をむしろ逆に促進するべきである。

4. 人口を減らすための政策

人口の削減は、温室効果ガスの削減と似ている。全体の削減にはみんな賛成するのだが、自分のところの削減となると抵抗が出てくる。とはいえ、人類全体の利益を優先させて考えるならば、各国ともエゴを主張しているわけにはいかない。「京都議定書(3)新しい制度の提案」で、私は、温暖化対策として、温室効果ガスの排出にピグー税を課すことを提案したが、ここでは、「子供の排出」にピグー税を課すことを提案したい。

具体的には、結婚する前に、養育保険への加入を義務付け、多額の保険料を支払うことを制度化する。未婚で出産するときも、同様の義務を負うものとする。この制度を世界的に普及させれば、経済的理由から出産を断念する人が増えるので、人口増加を抑制することができる。

また、結婚後、親が、病気や破産などの理由で、子の養育ができなくなっても、保険金により、子は十分な教育を受けることができる。だから、この制度は、教育水準の低い労働者を増やすことを阻止する。

発展途上国は、これまで、教育水準の低い労働者を大量に生み出してきた。しかし、世界的に産業のオートメーション化が進んでいるので、今後の労働市場で重要になるのは、人材の量ではなくて質であろう。子供の数を減らしつつも、一人当たりの教育投資を増やす養育保険制度は、知識集約的経済の時代にふさわしい人口増加抑制制度だと思う。

私は、このページの最初で、資源・環境問題の解決には、技術革新と人口増加の抑制の二つが必要だと言ったが、どちらも知識集約的経済が解決してくれる課題だ。一人当たりの教育投資が増えれば、優れた技術者の数も増えるだろうし、それだけ技術革新も促進されるだろう。

少子化を危惧している人たちは、少子化が進むと、生産年齢人口に対して非生産年齢人口である高齢人口が増え、経済が停滞するという問題を指摘するが、この問題も知識集約的経済が解決してくれる。人間の肉体的能力は、年とともに急速に衰えるが、知的能力は、加齢によっては容易に衰えない。知識集約的経済では、高齢者が知的労働を続けるので、高齢者の割合の増加が若年層の負担を増やすことはない。日本もそろそろ定年制を廃止してはどうだろうか。

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関連書籍紹介
書名 人口が爆発する!―環境・資源・経済の視点から
媒体 単行本
著者 ポール・R. エーリック 他
出版社と出版時期 新曜社, 1994/06
書名 子どもが減って何が悪いか! (ちくま新書)
媒体 新書
著者 赤川 学
出版社と出版時期 筑摩書房, 2004/12
書名 知識・情報集約型経済への移行と日本経済
媒体 単行本(ソフトカバー)
著者 経済企画庁経済研究所
出版社と出版時期 大蔵省印刷局, 1999/04/27
日本人はどこまで減るか―人口減少社会のパラダイム・シフト (幻冬舎新書)
リサイクル・セックス

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