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北マリアナ連邦

サイパンに首都を置く北マリアナ連邦(米国自治領)は、事実上財政が破綻している。かつては日本から多くの観光客が訪れ、経済的に豊かだったこの国は、なぜこんなに落ちぶれたのか。その原因は、住民の未来のことを何も考えないアメリカの統治政策と持続可能な開発を考えない住民の安易な生活習慣にあった。

1. 北マリアナ連邦の概略

北マリアナ連邦(Commonwealth of the Northern Mariana Islands)は、小笠原諸島の先に続く、サイパン(Saipan)島、ティニアン(Tinian)島、ロタ(Rota)島など、マリアナ諸島南端のグアム島を除く14の北マリアナ諸島から成っている米国の自治領で、原住民は、チャモロ人と呼ばれている。

Mariana Islands
Mariana Islands [Wikimedia Commons]

北マリアナ諸島はかつて日本領だった。第一次世界大戦中、日本によって、当時ドイツ領だった北マリアナ諸島が占領され、1920年に、国際連盟で日本の委任統治地域とされた。1921年、松江春次が南洋興発株式会社を創立し、製糖業を手始めとして、様々な事業をサイパン島やロタ島で興し、一時期、人口は5万人に達した。

しかし、北マリアナ諸島が、第二次世界大戦中に、米国によって占領されたために、松江春次の南洋興発株式会社は閉鎖されてしまった。その後、北マリアナ諸島は、1947年に、国際連合により、米国の太平洋後諸島信託統治地域ミクロネシアの一部とされた。

米国は、1946年から1958年まで、北マリアナ諸島の近くにあるビキニ、エニウェトクの二つの環礁で67回の核実験を行った。これに対する住民の不満を抑えるためなのか、米国は、チャモロ人に補助金をばらまいた。日本がチャモロ人に働かせたのに対して、米国はチャモロ人を遊ばせた。

サイパン島に住むある老人は、政府が支給するフードスタンプ(食費補助のための金券)のおかげで、島の農業が廃れたと嘆いている。

Now you don't have to be a farmer. You can become lazy, go and apply for food stamps, and survive. In the olden days, there were no food stamps. People had to go out there and plant or go out there and fish. Today, there are quite a few people on food stamp programs here in this village.

今では、農民をやる必要がなくなった。怠けて、フードスタンプをもらいに行って、生きていくことができる。昔は、フードスタンプなんてものはなかった。外に出て、作物を植えるか、漁をするかしなければならなかった。今日では、うちの村でもフードスタンププログラムのお世話になっているやつがいっぱいいるよ。

ロタを訪れた山脇氏は、豊かな自然に恵まれているにもかかわらず、島民が海外から輸入される食材に依存していることにあきれている。

現状では、ロタ島の食材はアメリカ合衆国を中心として、極端に海外に依存している。これはロタ島に何軒かあるスーパーに行ってみれば明らかだ。棚に並んでいるのは海外からの食材がほとんどである

これも、フードスタンプの弊害である。ロタ島でも、フードスタンプのおかげで、チャモロ人たちは、以前のように熱心に農業や漁業をしなくなった。あんなに小さな島に住んでいるにもかかわらず、泳げないチャモロ人までいる。

補助金行政は永遠に続かない。米国は、核実験をネバダ州の砂漠で行うようになると、軍事基地があるグアム島以外のミクロネシアを直接統治するメリットを感じなくなったので、1986年に、レーガン大統領は、北マリアナ諸島を、自治領として内政的に独立させた。かくして、長年補助金で甘やかされてきた北マリアナ諸島が、いかに経済的に自立するかが課題となった。この点、米軍基地撤退後の経済的自立方法を模索している沖縄と似ている。

2. 北マリアナ連邦の経済的危機

北マリアナ連邦の経済的自立は困難を極めている。この国の二大産業は、観光産業と縫製産業であるが、そのどちらもが近年危機的状態にあるからだ。

かつてサイパン島は、日本に近いという地理的条件から、観光業で栄えていた。しかし、日本からの観光客は年々減少し、2005年10月には、日本航空(JAL)が国内から北マリアナへの定期便をすべて運休にしてしまった。最終便には数名の乗客しか乗っていなかったらしい。日本航空の代わりに、ノースウェスト航空が定期便を飛ばしたが、そのノースウェスト航空も、2006年10月には、サイパン-関空間の運行を中止し、さらに、成田-サイパン間も週3便から1便に減らした。直接の原因は原油高であるが、根本的な原因は、サイパンがもはや目の肥えた日本の観光客を満足させることができなくなっているところにある。

KFCトライアスロンクラブの大西氏は、サイパンが観光地としての魅力を失ったのは、ゴミ処理問題で失敗したことが原因だという。

南の島にとって、特に観光で生計をたてているマリアナ諸島にとっては、あのサンゴ礁内の紺碧の海は最も重要な「売り」である。ところが、最近、サイパン島のマイクロビーチ界隈の海は非常に汚れが目立って来て、遊泳禁止地区に指定されているほどである。その汚れは2km沖合いに浮ぶマニャガハ島にも達しており、10年前は水の透明度にも素晴らしいものがあったが、今ではマイクロビーチ側の渡し舟桟橋付近では透明度も悪く悪臭がする。但し、外洋から新鮮な海水が流入して来る島北側では今も昔のままの透明度を誇っている。

原因はマイクロビーチに隣接した海沿いにあるゴミ捨て場と云われている。長年の間に山と積まれたゴミ山から染み出る汚水がこの付近のビーチを汚染しているのである。観光局や観光業者は、「売り」である海の汚染はイメージダウンに繋がり、触れられたくない問題ではあろうが、早く抜本的な手を打たないと、近い将来観光産業にとって取り返しのつかないダメージを受けることになる。美しい海を期待して訪れた観光客にとってはガッカリであり、徐々に「サイパンの海は美しい」というイメージは幻になりつつある。

サイパン島に代わって日本人観光客の注目を集めるようになったのが、ロタ島である。サイパン島と違って、観光地としての開発が進んでおらず、住民も少ないこともあって、かつてサイパン島にあった透明度の高い美しい海がまだ残っている。

2001年に野口五郎と三井ゆりがウェディングをしたハニーガーデン(ガガニフルーツ農園)。この結婚式の報道で、ロタ島は、日本でも有名になった。

サイパンに見切りをつけた日本航空も、ロタにチャーター便を飛ばすことを決めた。

Veteran Rota senator Paul A. Manglona confirmed that during a meeting yesterday, it was agreed that JAL, which had terminated its scheduled flights to Saipan in 2005, will be making 11 charter flights to Rota in August.

ロタの元上院議員、ポール・マングローナは、昨日の会合で、2005年にサイパンへの定期便を取りやめた日本航空が、8月にロタへ11便のチャーター機を飛ばすことに同意したことを確認した。

[Saipan Tribune:JAL to commence charter flights to Rota, Friday, March 02, 2007]

しかしながら、私が見るところ、ロタもサイパンと同じ過ちを繰り返しているように思える。ごみ処理がずさんである。いや、そもそも処理など全くしていないといってもよいぐらいである。

ロタには、日本にあるようなゴミ回収の公共サービスはない。島の人たちは、家庭用ゴミも産業廃棄物も、この標識の向こうにあるゴミ捨て場に、自分たちで直接捨てている。

以下の写真に見られるように、道路の脇にゴミが大量に積まれている。

ここが、道路の行き止まりで、見渡す限りゴミばかりである。

今のところ、ごみの量がサイパンほど多くはないので、水質汚濁は顕在化していないが、その弊害は既に現れている。生ごみを放置しているために、ハエが大繁殖しているのである。現地の人は、食事にハエがたかっていても平気なようであるが、日本人観光客には耐えられないことである。

ロタ島のゴミ捨て場は、最も観光地として人気のあるテテトビーチからあまり遠く離れていない。山と積もれたゴミに降り注がれた雨水が、ビーチにまで浸透してきたら大変である。

テテトビーチ。シュノーケリングに最適の人気スポット。一番遠くに見える濃い青色は、外洋で、その荒波が珊瑚の防波堤にあたって水飛沫を上げている。一番手前は、白い粉末珊瑚の浅瀬。中間の部分は、黒い岩がある領域で、熱帯魚が生息している。

高騰し続けた原油価格もこのところ下がり始め、北マリアナ諸島から相次いで撤退した航空会社各社も、再び参入を検討している。だが、いくら交通の便が良くなっても、観光地が汚染されているようでは話にならない。2006年に就任した新知事が最初にしたことは、日本に陳情に行って、日本航空とサイパン便復活の交渉をすることであったが、それよりも先にしなければならないことがあるだろう。

2006年1月9日の就任式で演説する Benigno Fitial 知事。左端は、Timothy Villagomez 副知事夫妻。知事は、年間100万人の日本人客が北マリアナ諸島を訪れることを目標として掲げていた。

北マリアナ連邦の観光業に次ぐ産業は縫製業である。北マリアナ連邦はアメリカ合衆国の一部ということで、輸入割当制限や関税が免除され、さらに、最低賃金規制の水準が本国よりも低いため、中国系の企業が、サイパンに建設した縫製工場で、安い移民の労働力を使って本土向けの衣類品を作っていた。本国の人権派議員の中には、サイパン工場で行われていた搾取労働を問題視する人もいた。

日本語のサイトには、中国系企業がサイパンに工場を作ったのは"Made in USA"のブランドが目当てだといった説明をよく見かけるが、ブランドのメリットは大きいものではなく、2005年1月に、WTOの協定により、衣類の米国向け輸入割当制限が廃止されると、中国本土の安い衣類が米国市場を席巻し、サイパンの縫製工場は大きな打撃を受け、撤退したりダウンサイズしたりするところが相継いだ。

結局のところ、北マリアナ連邦の縫製産業は、米国であって米国でないという微妙な地位を利用して栄えた輸出産業であって、製品そのものに競争力があるわけではない。北マリアナが長期的な繁栄を目指すのであれば、法の網をかいくぐるようなやり方ではなく、本当に国際競争力のある商品の開発に特化するべきだろう。その商品とはいうまでもなく、観光資源である。

3. 経済危機を克服するのに必要なこと

北マリアナ連邦が、危機に瀕している経済を立て直すには、フードスタンププログラムのような生活保護制度を大幅に縮小させ、農業(漁業を含めた農業)を復活させる必要がある。北マリアナ諸島では物価が高いのだから、生活保護は必要だと思うかもしれないが、物価が高いのは、ほとんどのものを輸入物に頼っているからである。人件費は安いのだから、その安い労働力を使って農業をすれば物価は下がる。

また農業の復活は、観光産業にとっても好ましい影響を与える。海外から輸入された高くてまずい食材を使ってありきたりの料理を作るよりも、地元で取れた安くて新鮮な食材を使ってチャモロ料理を作るほうが、観光客には魅力的である。自給自足する必要はないが、比較優位のある作物なら作るべきだ。

観光資源を保全するためにもう一つ必要なことは、ごみ問題を解決することである。ロタも一時期ゴミを焼却処理をしていたが、ダイオキシンが出るということで、野焼きをしなくなった。日本でも、ダイオキシンは問題になったが、実際には毒性が低く、野焼きをして発生するダイオキシンで、人が死ぬことはない。但し、単に焼却処理をするだけでは、ごみに残存している未利用資源を有効に活用することはできない。

北マリアナ連邦は、エネルギーを輸入した石油に頼っているが、これだと、原油価格が高騰すると、航空会社が撤退するだけでなく、国内で停電が頻発し、経済全体が麻痺してしまう。農業の復活とごみ問題の解決は、エネルギー自給率の向上による経済の安定という点でも必要である。農業廃材からバイオエタノールを製造すれば、それをガソリンに混ぜて使うことができる。石油化学製品などのごみからも、サーマルリサイクルで電気を取り出すことができる。いずれにせよ、クリーンエネルギーを使うことは、自然の美しさを売りにしている観光地では必要なことである。

サイト内記事紹介

クリスマスを目前に迎えようとする12月22日、Marianas varietyの一面にショッキングな記事が掲載された。タイトルはGov't bankrupt つまり「国家破産」である。[...]「北マリアナ政府は退職基金(公務員用)に対して、およそ600億円の短期政府債務を支払う財政資金を欠いている」と記載されている。要するに政府の役人用に積み立てていた年金資金を使ってお金がない政府の運営を行っていたが、それを返すことがまず不可能であるから政府は既に債務超過で国家破産したというのが新聞の要旨である。

ロタ島最大の企業でもある日系のロタリゾートホテルでは、ホテル内で出る汚水を敷地内にある処理場でバクテリア分解処理し、さらにその処理水をゴルフ場の散水に利用している。中々上手いシステムと言えよう。


サイパン・グアム 光と影の博物誌

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