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【対談】 日本の若者に未来はあるか

『対談』
作家 永井俊哉(下記が著書一覧)
ファリック・マザー幻想―学校では決して教えない永井俊哉の"性の哲学" / 縦横無尽の知的冒険
作家 峯山政宏(下記が著書一覧)
地獄のドバイ―高級リゾート地で見た悪夢
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永井俊哉と峯山政宏による四回にわたる対談の第一回目。安倍内閣が教育再生の目玉として推進しようとしている教育バウチャー制度を検討する。また、奉仕活動や愛国心教育の是非をも考える。

永井俊哉と峯山政弘
永井俊哉(左)& 峯山政宏(右)

峯山:本日は「日本の若者に未来はあるのか」というタイトルで永井さんと若者の教育と就職についてお話ししたいとおもいます。よろしくおねがいします。このたび発足した安倍内閣は、教育再生を内閣の重要な課題にしていますが、 安倍晋三さんの政策をどう思いますか。

永井:彼の構想には、評価できるところもあれば、そうでないところもあります。

峯山:永井さんから見て具体的に言うと何が評価できて、何が評価できないのでしょうか

永井:一番評価できるのは、教育バウチャーの導入ですね。

峯山:教育バウチャーの導入とは一体どういうことでしょうか?ブッシュ政権が導入に失敗したという話しを聞いたことがあります。

永井:従来のように、政府が公教育機関に直接補助金を出すのではなくて、生徒に利用券(バウチャー)を配布し、彼らに一番望ましい学校や授業を選ばせ、そうすることで、消費者に選ばれた学校や授業に補助金が支給されるという仕組みです。

峯山:それでは公立高校でも私立高校でも自分の行きたいところに行けるということでしょうか?大学選びのようですね。少子化が進んでいるので、大学だけではなくて高校も統廃合を余儀なくされるようになりますね。

永井:大学選びというよりも、塾選びに近くなります。学習塾へ行く時のことを考えてください。生徒は、学力を上げてくれそうな塾を選びます。効果がなければ、他の塾に行きます。その結果、生徒は自分に最適な塾で学べるようになります。

峯山:高校選びが塾選びのようになると既存の塾との競争が厳しくなるだろうと思います。そうなると真っ先に生徒が来なくなるのは公立の高校ですね。しかし、生徒が少なくても公立の先生は国の補助金で首にならないのかもしれませんが。教育現場の混乱が予想されます。

永井:私は、教育バウチャーを評価するといいましたが、現状では成功しないと思います。なぜなら、教育バウチャー制度の本格的な導入には、公教育の廃止が前提となるにもかかわらず、安倍内閣はそのようなことは全く考えていないからです。

峯山:世界では教育バウチャーの導入に成功した事例はあるのでしょうか?国民の多くがバウチャーって何なのって疑問に思うだけでその導入のメリット、デメリットまできちんと仕訳して考えることはないように思います。

永井:アメリカのいくつかの自治体がやっています。学校選択の自由を拡大するという点で、アメリカのチャータースクールとか も制度として近いと思います。ヨーロッパでも児童生徒数を基準として公的助成が行われています。もちろん、そうした欧米諸国も公教育を完全に否定したわけではありません。 しかし、だからといって、公教育を廃止するなというようでは、あまりにも主体性がなさ過ぎます。もしも、すべての国が、いかなる改革も、他の国がやって成功するまでは自分の国ではやらないなどと言っていたら、どこの国も新しい改革ができません。だから、 公教育の廃止が良いかどうか、自分の頭で理論的に判断してください。

峯山:教育バウチャー制度の本格的な導入には、公教育の廃止が前提となるという部分を具体的に説明していただけませんか。

永井:生徒が教育機関を選ぶことが有意義であるためには、教育機関が多様でなければいけません。公教育は、国公立であれ、私立であれ、公的資金を受け取る代わりに、文部科学省の様々な規制に拘束されます。自分の教育理念に基づいて、創意工夫を凝らすということができません。

峯山:端的に言えば、義務教育以降の学校の存在を代々木ゼミナールや河合塾のように完全に民営化すべきだということですね?

永井:いいえ、公教育を廃止するということは、義務教育の期間を含めて、すべて廃止するということです。そもそも、公教育の廃止は、義務教育の否定にはなりません。教育の義務に対応する権利を守るために、教育バウチャーを配布するのです。

峯山:生徒とその両親に学校を選ぶ権利が教育バウチャーの配布で保証されるとなると、自分の頭ではなくてテレビや新聞に影響されるのではないですか?選挙も広告宣伝費にお金をかけた方が勝つではないですか?

永井:確かに、選ぶきっかけにはなるでしょうが、その学校で満足できなければ、生徒はすぐよそに逃げてしまいます。 現在の公教育では、いったん入学したら、特別な理由がなければ卒業まで別の学校に移ることはできませんが、これを、転校はいつでもできるようにすれば良いのです。

峯山:教育バウチャーを導入するには様々なハードルがありそうです。現在でも名門大学に通う生徒の多くが私立高校出身という事情があります。進学先も考えると親の目から見ると私立の方に子供を行かせたいと思うようになりますね。公立高校出身の私にはとても残念です。

永井:教育バウチャーは、お金がなくて、高レベルな教育が受けられないということがないようにするための制度です。

峯山:教育バウチャー導入後の社会は私立高校だけで、国の教育費が増加するという結果になりそうですね。富裕層の親を持っているかどうかで学歴が決まる現代社会よりよいと思いますが、問題はコストの増加でしょう。

永井:コストは増えません。なぜなら、これまで学校に直接交付していた補助金を教育バウチャーにするだけですから。

峯山:山形県の事例ですが、私立と公立の高校で授業料が平均で4.1倍も異なるのだそうです()。生徒に選ぶ権利が与えられるならば、皆さんに教育水準が高く、高額な私立高校に無料で行きたいと思うでしょう。

永井:私が言っている公教育の廃止というのは、公立学校が私立学校になるというよりも、国公私立の学校が塾になるというのに近いです。日本の教育費が高いのは、公教育が機能していないために、私教育まで出費しなければならないからです。私教育だけになれば、コストパーフォーマンスが向上するので、教育費を引き下げることができます。

峯山:公教育が機能しないから、私塾に行っているという現状の無駄を廃止して、機能しない学校は閉鎖にして学校を塾並みに効率のよいものだけ残してしまおうということですね。安倍内閣と永井さんの教育バウチャーに対する考え方の違いを例などもまじえてわかりやすくしていただけませんか

永井:安倍内閣は、国家主義的だから、公教育を廃止することはないでしょう。むしろ、逆に国家による教育への介入が強まると思います。 これは望ましいことではありません。

峯山:国公私立の学校だけでの教育バウチャー制度が、安倍内閣案、国公私立の学校だけではなくて、既存の塾も含めた形で教育バウチャー制が永井案ということになりますね。

永井:そうです。 日本の教育バウチャー制度は、アメリカの制度の模倣であるわけですが、日本はアメリカとは異なって、私塾が発達しているのですから、そうした日本の特殊事情をよく勘案するべきです。

峯山:教育バウチャーにはまだ問題点があります。地方に住む生徒さんには教育バウチャーを配布されても学校数が少ないために選ぶ権利がありません。都会の生徒さんの方が有利なので、より新しい制度の恩恵を得られることになります。

永井:もしも、近くに満足できる学校がなければ、寮に入るという手があります。人格形成という点でも、寮で集団生活をするということは効果があると思います。現在、一世帯あたりの子供の数が減っているので、同世代の友達と遊ぶ経験が減ってきています。コミュニケーション能力や社会的責任を身に付けさせる教育という点で、寮で子供の自治的コミュニティを復活させることは有意義だと思います。

安倍さんの側近の下村博文衆院議員は、「子供たちに、1人で生きているのではなく、社会みんなで助け合って生きているのだと実体験してもらうため」に、奉仕活動を必修化する案を検討しています。高校卒業は3月だけれども、大学入学は、海外の大学にあわせて、9月にし、半年のブランクのうち3カ月間を介護施設などで奉仕活動をさせ、その経験がなければ大学に入学させないという案です。しかし、3ヶ月間奉仕活動をしたぐらいでは、その人の人格を変えるほどの効果はないと思います。心の教育を普段の教育から切り離してやるのではなくて、普段の教育の中で行うことが重要です。

峯山:意識の高い生徒さんには、そのような寮を活用することで十分な教育が受けられるようになりますね。奉仕活動の件ですが、私がシンガポールに駐在していた時に、ボランティアをするために街を出ている学生さんをよく見かけました。意識が高い国だなと当初は感心していましたが、どうやらボランティアをすることが必修のようですね。

シンガポールのような歴史の浅い国はボランティアなどの奉仕作業で、愛国心を育てるのは常套手段だと思いますが、日本でもそうしなければいけないほど日本や郷土に対する愛情がなくなってきたかと思うと少し悲しいですね。

永井:稲田朋美衆院議員が、徴兵の変わりに、徴農をやれと言っていますね。ニート対策らしいけれども、ニートが大挙してやってきたら、農村の人たちも迷惑するでしょうね。

峯山:愛国心が必要なのはわかりますが、どのような案が永井さんはよいと思われますか。安倍内閣は、教育再生の取り組で評価できない点を中心にお話しください。

永井:私は、国策として愛国心を育てるという政策を支持しません。個人のために国家があるのであって、国家のために個人があるのではないですから。 また、太平洋戦争の時を思い返してみればわかるように、愛国心に直接訴えかける心情右翼がはびこると、 盲目的になって、国が滅びます。その意味で、心情右翼は、実は愛国者ではないと言うことができます。 「かわいい子には旅をさせろ」とよく言いますが、もしも本当に自分の国を愛しているのなら、自分の国を愛してはいけないのです。

(第二回に続く)


(注)「私立高校支援:授業料格差是正へ」

斎藤弘知事は26日の県議会代表質問で、「県内の3割が私立高校に通っているが、公立との間の授業料に差がある。公私の負担差に配慮しながら、支援充実を図ることを検討したい」と語った。現行制度では、県内高校の授業料(私立は納付金を含む)は公立、私立の格差が4・1倍程度あり、格差是正に乗り出す意向を示した。

県教育庁教育やまがた振興課によると、私立高等学校授業料軽減事業費補助制度で、県内私立高校15校に通っている生徒のうち親の所得が少ない生活保護世帯などに補助を実施。今年度は、約1000人に約1億410万円の予算を計上している。来年度に向け、支援対象者の範囲拡大などの方向で、さらに支援充実を図るという。

[毎日新聞:2006年9月27日]

永井俊哉と峯山政宏による四回にわたる対談の第二回目。安倍首相は、教員免許の更新制に意欲を示しているが、十年に一度講習を受けることで、教員の質が向上するのか。どのように制度を変えれば、学生は学ぶ意欲を持つようになるのか。前回に引き続き、教育問題を考える。

永井俊哉と峯山政弘
永井俊哉(左)& 峯山政宏(右)

峯山:安倍内閣の教育再生のもう一つの目玉に、教員免許更新制がありますね。

永井:ええ。中央教育審議会は、既に今年の7月に、免許の有効期限を10年として、期限満了前の2年間に最低30時間講習を受けないと免許を失効させるという仕組みの導入を答申しています。

峯山:高等学校を卒業して、10年ほど経ちますが、故郷に戻る際に母校に立ち寄って以前と変わらない顧問の先生にお会いするととても嬉しい気持ちになります。そのような機会が免許更新制になるとなくなる可能性がありますね。私は反対に一票いれます。

永井:私は、違う理由で反対です。この教員免許更新制は、運転免許証更新制度と同じような弊害をもたらす可能性があるからです。峯山さんは、運転免許の更新に行ったことはありますか。

峯山:はい、忘れた頃に免許の更新がありますね。目の検査をして、交通事故は悲惨だ!というビデオを見せられて、その後に安全を守ろうとか何とかの標語を暗唱させられました。

永井:私が警察署に行って受けた講習は、もっとお粗末なものでしたよ。行ったら、誰も見ていないビデオが流されている中、視力検査をして、写真を撮って、交通安全ガイドとか、安全運転のしおりとか、交通の教則とかといった小冊子を手渡されて、それで終わりでしたね。手渡された小冊子はちゃんと読みましたか。

峯山:読んだ後に捨てたか、読んでもいないのに捨てたか定かではありませんが、捨てたことは確かです。

永井:あんなものは、ほとんどの人は、読んでいません。全く紙資源の無駄です。対価として支払われる更新手数料、年間約500億円は、天下り団体である交通安全協会を潤しています。 運転免許更新制度は、臨時行政改革推進審議会で槍玉にあげられ、更新期間を10年程度に延長するという案が出ていたのですが、 彼らは自分たちの利権を手放そうとはせず、実現しませんでした。

峯山:利権というものは困ったものですね。ところで、この運転免許証の更新と教育免許更新制とはどのような関係があるのでしょうか。どちらも免許を一定期間の後に更新しなければならないのは分かりますが。

永井:現在少子化が進み、大学は学生を集めにくくなっており、とりわけ教員養成系の学部は、就職先も減っているという二重の危機に瀕しています。そこで、文部科学省は、教員免許更新制度を作り、 更新手続きに来る教師たちに講習を行うことで、大学の仕事を新たに作ろうとしているのではないかと忖度しています(注1)。

峯山:新たな利権構造ができるかもしれないということですね。しかし教育免許更新性が教師の実力をあげるためにあるのであれば、運転免許証の更新のように形骸化したものではなくて、もっと実質的に教師の能力を高めるものになるのではないですか。大手の進学予備校のように

永井:大学に行って、退屈な講義を聴かされて、それで教師の能力が高くなると思いますか。

峯山:うーん、そのようになりそうにないですね。また新たな利権構造ができるわ、何の役にも立たないわで国民の反感を買うことになりますね。政治家にはつくづくうんざりしてきます。

永井:安倍さんは所信表明演説の中で「教員の質の向上に向けて、教員免許の更新制度の導入を図るとともに、学校同士が切磋琢磨して、質の高い教育を提供できるよう、外部評価を導入します」と言ってい ますが、なぜその外部評価を市場での評価に任せようとしないのかと問い質したいところですね。官が監視するという発想にとどまっている限り、小さな政府は実現できません。愛国心教育もそうですが、安倍内閣は国家主義的で、消費者の選択する能力をあまり信用していないのではないかという気がします。

峯山:表では国民のための教育改革と言いつつ、裏では自分たちの天下り先をつくるためにせっせと働いているわけですね。教育における利権構造について少し詳しくお話いただけないでしょうか

永井:安倍さんは、森派の出身で、 報道によると、いまでも、自民党文教族の実力者である森喜朗元首相の影響力は大きいそうです(注2)。 安倍さんが教育問題に力を入れているのは、このためでしょう。また、大学を管轄する文部科学省の役人たちの思惑もいろいろなところで働いているのではないかと考えられます。外国人留学生2千人に月計20-30万円相当の奨学金を支給する計画 (注3)も、日本の大学の需要を維持しようとする思惑からも作られているのでしょう。この外国人向けの奨学金には返還義務がありません。日本学生支援機構が日本の学生に出す奨学金に返還義務があることを考えると、かなり好条件です。

峯山:海外に行って、日本の大学に留学した外国人の方にお話しすると、まず驚いた事が、「日本の大学生が勉強しないこと」だそうです。世界的に見て、教育水準も高レベルではないですから、これくらいのことをしないと外国人留学生が来てくれないということでしょうか。日本の大学大丈夫かと少し不安な気持ちになります。

永井:大学に市場原理を導入し、教育力に優れた大学が選別されるようになれば、金をばらまかなくても、留学生は集まるようになるでしょう。

峯山:なるほど、それでは永井流の教育改革についてご意見をいただけますでしょうか

永井:まず、学位授与や単位認定といった評価機能を学校から切り離し、政府の仕事とし、そして、教育は完全に民営化します。そうすれば、学生 は学校の知名度ではなくて、純粋に教育の能力だけで、学校を選ぶようになります。

峯山:それでは学位授与や単位認定といった評価を政府はどのように行えばよいのですか。学生はますます勉強しなくなる可能性もあります。

永井:単位認定は、英検のように、全国共通の試験でやり、学位授与の場合は、論文審査が必要なので、学会を媒介に専門家に審査を委託して、申請者と審査者が相互に誰かわからないようにしてやれば、フェアな審査で、学位が授与されるようになるでしょう。

峯山:私にも経験がありますが、つまらない講義には代返を頼むという学生の意欲なさといい講義をしようという教授の熱意のなさの両方で大学の教育は現在機能していないですね。小手先のの改革だけではなくて、永井流の抜本的な改革が必要かもしれません。

永井:これまでの教育行政は、授業を所定の時間受けているかどうかとかプロセスの規制ばかりしていましたが、重要なのは結果であり、プロセスは民間教育の創意工夫に任せるべきだと思います。

峯山さんは、学習意欲を問題にしていますが、人間というものは、押し付けられると意欲を失うけれども、自分で選んだことは熱心にやるものです。教育のプロセスを民営化し、選択の自由を拡大すれば、学生の勉強への意欲は大きくなるでしょう。

しかしながら、実際に行われている教育改革は、プロセスの自由化とは逆で、法科大学院を設立して、司法試験合格に有利な学校を作って、そこへの在籍を推奨するとか、論文博士を廃止 して、博士号を取得するには博士課程に在籍しなければならないようにするとか、公教育の仕事を増やすことばかりしています。

峯山:効率を重視していた教育の部分にプロセス重視の制度を持ち込むわけですね。プロセスが大事か結果が大事か、どちらも大事ですので一概にプロセスが悪いとは思いませんが、そのプロセス の部分に無駄な利権構造が作られて国民の税金が使用されるのはご勘弁をいただきたい思います。

永井:プロセスを評価する教育制度を作ると、プロセスが目標になってしまいます。成績が悪くても頑張った生徒の内申点を良くするという制度を作ると、生徒たちは、先生に頑張っているような印象を与える演技をしようと努力するようになります。こういう偽善者を育てるような教育は、好ましくありません。

峯山:プロセスに国が関与すると民間の創意工夫が無くなってしまうということですね。

(第三回に続く)


注1)但し、中央教育審議会によれば、講習は、大学だけでなく、教育委員会も開催できるとのことである。これは、課程認定大学が近くにない過疎地のことを考慮に入れたものと思われる。

免許更新講習については、教員免許状が課程認定大学における所要の単位修得等により授与されるものであることを踏まえつつ、受講機会を幅広く確保する観点から、課程認定大学のほか、大学の関与や大学との連携協力のもとに都道府県・指定都市・中核市の教育委員会等も開設することができるようにすることが適当である。

教員養成系の大学も、専門職大学院制度を活用して「教職大学院」制度を創設するとのことであるが、こうした、公権力を利用した大学の生き残り策の弊害に関しては、「末は博士かホームレスか」を参照されたい。

注2

安倍首相は組閣直前、河口湖畔の別荘にこもり、国会議員の略歴などが書かれた議員要覧を見ながら、自分で人事を決めたことになっている。「派閥の意向にとらわれない」と勇ましかったが、やっぱり、ウソだった。

総裁選2日前の今月18日夜、六本木ヒルズにある森喜朗の自宅を極秘訪問し、人事の相談をしていたのである。

しかも、「これから伺っていいですか。飯を食わせてください」と安倍が電話し、「中川さんを経財相に」と切り出したことや、森が「彼は受けない。幹事長が一番いいんじゃないか」と語ったことなど、当事者2人しか知りえない会話がバッチリ新聞に書かれているのだ。

[livedoor ニュース:森元首相に潰された安倍のメンツ,2006年10月01日]

注3

中国、韓国などアジア諸外国の優秀な人材に、日本企業にもっと入ってもらおうと、日本の大学で学ぶ留学生への無償奨学金制度を07年度から経済産業・文部科学両省が始める。大学・大学院に、採用意欲のある企業と提携して、留学生向けの専門講座やビジネス日本語講座などの2年間の特別コースを新設してもらい、その受講生1人あたり、住居費分、学費免除分、生活費など月計20万~30万円相当の支給を検討中だ。支援対象は約2000人を想定している。

[朝日新聞: アジア留学生に奨学金、日本で就職促す,2006年08月20日]

永井俊哉と峯山政宏による四回にわたる対談の第三回目。アメリカ型の市場原理主義を導入し、規制緩和を実施したおかげで、日本の社会でも貧富の格差が増大し、格差社会が生まれたといわれているが、本当なのか。再チャレンジ支援策を考える前に、格差社会を考察する。

永井俊哉と峯山政弘
永井俊哉(左)& 峯山政宏(右)

峯山:これまで教育の話をしてきましたが、後半の2回は、就職の話を扱いたいと思います。安倍内閣は、小泉内閣最大の負の遺産と言われる格差社会 の問題を解決するために、再チャレンジ支援政策を打ち出していますが、これについて、永井さんはどう思いますか。

永井:格差社会の弊害を言う前に、日本の格差社会がどういうものかをよく見なければいけません。よく、テレビで評論家とかが、規制緩和や自由競争により、社会が弱肉強食となり、強者はますます金持ちになり、弱者はますます貧乏になるから、弱者を救済するために規制の強化が必要だといったことを主張したりしますが、こういうことを言う人たちは、日本の格差社会の現状を大きく見誤っていると思います。

日本で実際に賃金が高いのはどういう業界かを見てみましょう。業界別平均生涯賃金ランキングによると、1位、放送業界:47千万円、2位、石油・石炭製品業界:31千万円、3位、海運業界:30千万円、4位、空運業界:30千万円、5位、情報・通信業界:29千万円、6位、電気・ガス業界:28千万円、7位、証券業界:27千万円、8位、医薬品業界:27千万円、9位、不動産業界:27千万円、10位、その他金融業界:26千万円、11位、保険業界:26千万円、12位、銀行業界:25千万円、13位、倉庫・運輸関連業界:25千万円というように、物、金、情報を横に動かしているだけの産業が上位にランクインしています。

トップは放送業界ですが、実際、平均年収高額企業ランキングをみても、上位7位中5社までがテレビ局とそこにCMを供給している広告会社です。後は、保険と不動産の会社です。では、こういう業界が、本当に世界的に競争力のある強者かというと、そうではなく、むしろ、規制によって守られている、その意味では、弱者とも言うべき業界です。

峯山:国際競争力があるわけでもないテレビ局の人間に高い賃金が支払われている一方、真に国際競争力のある日本の製造業の人間にはそれに見合った対価が支払われていない というわけですね。でも、自由競争が格差社会を作るのではなくて、自由競争をさせないことが格差社会を作るなどという話はあまり聞いたことがありません... ああ、わかりました。テレビ局が、規制緩和と自由競争をやると格差社会が生まれるから規制を強化するべきだといった考えで視聴者を洗脳し、事実を隠蔽するのは、テレビ局が、規制によって生まれる格差社会の最大の受益者だからということですね。

永井:そこまで陰謀論的に考えてよいのかどうかわかりません。実際、自由競争をしても、格差社会になります。ただ、強調しておきたいことは、もしもフェアな競争が行われていて、努力して成果をあげた人が裕福になるという社会なら、貧富の格差はあってよい、いや、むしろ貧富の格差がなければ不公平だということです。しかし、保護産業が、規制に守られて、不当に高い利益を手にして、格差社会が生じているとするならば、それは、社会的正義という点からも、経済の健全な発展を阻害しているという点でも、望ましくありません。

峯山:そういえば、日本のアニメ産業も国際競争力を持った輸出産業ですが、現場のアニメーターの人は悲惨な生活を強いられているようですね。

永井:たしかに、日本の漫画やアニメは世界的に高い評価を受けていますが、肝心の作品を作っている人の給料は安いですね。アニメーターの初任給とか月10万円を切っています。一方で、アニメを放送するテレビ局の給料は高い。日本の製造業には、今でも、世界的に高い評価を受けている優秀な会社がたくさんあるのですが、あまり給料は高くない。しかし、そこに金を貸しているところの給料は、その製造業よりも給料が高い。私は、金融業が製造業よりも給料が高いのはけしからんと言うつもりはありません。金融業でも、優れた金融テクノロジーを開発したり、優れた調査・評価能力を持ったところの給料はよくてしかるべきだと思います。しかし、日本の金融業は、 世界的に見て一流とは言い難いです。

峯山:世界的に見て一流であるとは言えない産業が一流である産業を搾取して高い給料をもらっているというのは許せません。

永井:格差社会の弊害を口にする前に、まずは、保護主義や政府による市場経済への干渉を止めて、強者が豊かになる社会を実現するべきです。弱者の救済は、保険でカバーすればよいでしょう。

峯山:現在の六社による電波の寡占状態を打破するためにも、地上波への新規参入を認めるべきなのでしょうが、放送の自由化を推し進めようとすると、その政治家や政党は、テレビ局から叩かれて、選挙が不利になるから、 なかなか改革できないというのが現状でしょう。

ところで、普通、格差社会というと、業界間の格差ではなくて、労働者個人間の格差が問題となります。特に最近問題になっているのは、正社員とフリーターの格差 です。

永井:たしかに、最近、アルバイト社員、派遣社員、契約社員といった非正規労働者が増えています。正規労働者と仕事内容や労働時間が同じであるにもかかわらず、給料が低く、社会保険からも阻害されていて、働いても貧しいという意味で、ワーキングプアなんて呼ばれたりしていますね。なぜこのような非正規労働者が増えていると思いますか。

峯山:不景気のために労働者の需要が減少したためです。本来なら社員の給料を一律にカットをすれば、労働需要は増加しますが、労働組合などの既得権益層が自分たちの給与の現状維持を行い、新入社員の数をカットして、不足な労働力を安い賃金で働く非正規労働者に委託しているために非正規労働者が増えているのだと思います。

永井:労働者の需要が減少しているのに、労働力が不足するのはなぜでしょうか。

峯山:どの会社にも新人が行うべき単純労働という仕事があります。新入社員が本来行うべきですが、彼らの採用数をカットしたために派遣社員に委託するという方法を取るのだと思います。

永井:派遣社員というのは、本来は、高度な技術を持っていて、その技術を一時的に売るという職種だったのだから、それは違うでしょう。規格製品を大量生産する工業社会が終わり、情報社会になることで、産業がスポット化し、それに伴って、雇用もスポット化し、簡単に雇用したり解雇したりできる派遣社員がもてはやされるようになったと私は考えています。ただ、派遣労働者を使うと、派遣業者に、派遣料金の20-40%を取られてしまいます。企業は、中間搾取があることを知りながら、なぜ割高な派遣社員を雇うと思いますか。

峯山:退職金や厚生年金などの企業加算をしなければならない正社員よりもいつでも解雇できる派遣社員の方が割安だからではないのでしょうか 。

永井:そうですね。日本では、不要になったからといって、正社員を簡単にクビにすることはできません。解雇するときには、会社が新しい就職先を紹介しなければなりません。それができない時は、窓際族と呼ばれる社内失業者として残留するので、企業にとっては、正社員を雇用することは、非常にリスクが高いわけです。

これに対して、会社が正社員をいつでもすぐに解雇できる社会では、労働者の権利が守られていないように見えますが、そういう社会では、逆に失業者も簡単に職を見つけることができるわけですから 、かえって労働者の権利が守られているということができます。労働者の権利を守ろうとして、儲かっているのは、派遣業者というのは皮肉なことです。こうしてみてみると、労働者の権利を守ることは、かえって労働者の権利を守らないことになるということが見て取れると思います。

結局のところ、企業内格差も、企業間格差と同様に、必ずしも本人の努力や能力の結果生まれたものではありません。景気がよかった頃に正社員として就職した人たちが、規制と慣習に守られて雇用を維持し続け、不当に高い賃金を得ている一方で、不況のときに学校を出て、就職できずに、フリーター人生から抜け出せなくなることで、格差が生まれているわけです。 こうした不公平な格差が生まれないようにするためにも、また人材の適材適所化を進めるためにも、雇用をもっと流動化する必要があると思います。

峯山:やっと若者にとってシリアスな格差社会の話に到着しました。でも、だいぶ長くなったので、フリーター問題と再チャレンジ支援策については、次回に持ち越すことにしましょう。

永井俊哉と峯山政宏による四回にわたる対談の第 四回目。安倍内閣は、再チャレンジ支援策の一環として、年長フリーターの正社員化を推し進めているが、この政策は正しいのか、これからの労働はどうあるべきかを論じる。

永井俊哉と峯山政弘
永井俊哉(左)& 峯山政宏(右)

峯山:前回は、前置き的な議論が長くなりましたが、今回は、最終回ですから、若者の雇用の問題を正面から捉えたいと思います。

永井:バブル崩壊後の不況のおかげで、新卒の就職は、長い間、超氷河期と呼ばれるほど厳しい状況が続いたのですが、2002年以降は景気がよくなり、今では企業が人材難で悩むほどで、新卒の就職難の問題は、過去の話になりました。他方で、この10年間の超氷河期に正社員になれずに、フリーター生活を余儀なくされている、25-34歳の、所謂「年長フリーター」の存在が大きな社会問題となっています。

峯山:景気がよいのであれば「年長フリーター」を再雇用するということはできないのでしょうか。彼らにしても正式な職が見つかるので良いと思うのですが。

永井:それが難しいようです。安倍政権は、再チャレンジ支援策を重要施策に掲げて、年長フリーターの正社員化を推し進め、厚生労働省も、来年度予算で26億円を新規要求し、対策を練っています。しかし、日本経団連の調査では、年長フリーター採用に前向きな企業はわずか1.6%で、24.3%は採用する意思がないとのことです。日本経団連のある会員企業の人事担当者は「ずっとフリーターだった若者を一から教育する考えはない」と言っています。

峯山:日本の企業は年功序列社会ですからね.今までフリーターとしてやってきた、年長の若者に年齢に見合う賃金を支払うのはもったいということだと思います。ところで安倍政権の再チャレンジ制度とはどのようなものか具体的にご説明いただけますでしょうか。

永井:文字通り、失敗しても、何度でも再チャレンジできる社会という意味です。その理念は正しいのですが、年長フリーター支援策に関して言うと、なぜあえて正社員にしなければいけないのかという根本的なところから疑って考えなければいけません。

峯山:永井さんは再チャレンジ支援策の理念自体はよいけれども、その方法論に賛成できないということでしょうか。

永井:年長フリーターの正社員化の推進は、正社員が理想の雇用形態であるという価値観が前提になっているわけですが、その前提を疑わなければいけないということです。峯山さんが「若者はなぜ会社をやめるのか」で書いているように、「なんでもそつなくこなせるタイプの人材」を正社員として雇い、公私にわたって会社がその社員の一生の面倒を見る時代は終わっています。正社員を増やすという政策が時代の流れに反しているわけです。

峯山:それでは今の時代の流れに沿った理想的な再チャレンジ制度とはどのようなものでしょうか

永井:現在企業は、正社員を減らし、代わりにアウトソーシングをするようになりました。フリーターも、専門的な技能を身につければ、フリーの身分でアウトソーシングの仕事を取ることができます。自分で会社を作れば、さらに大きな仕事ができるでしょう。うまくいけば、正社員になるよりも、収入や働き甲斐は大きくなります。

また、再チャレンジ推進委員会は、「再チャレンジ創業の資金調達支援、個人保証に過度に依存しない融資の推進」を提案していますが、国際的に見て著しく不利な日本の起業環境を改善することは必要なことです。

峯山:フリーで生きていく能力を身につけるのは並大抵のことではありません。頑張ればフリーでアウトソーシングの仕事を取れるのは良いと思いますが、多くの人が仕事が取れずに没落してしまうのではないでしょうか?また正社員の存在は日本人の年功序列社会を前提にしてきました。私もそのような時代も確実に変わってきていると思いますが、年功序列型が向く企業とそうではない企業の2通りがあると思います。後者は主として技術の移り変わりの激しいIT産業などを指します。

永井:売れるものができたら、それをウェッブ上で宣伝してみてください。私も自分のサイトを持っているおかげで、いろいろなところから仕事の依頼が来ます。

峯山:永井さんはどちらかというと普通の人ではなくて、特別な人です。普通の人が、自分でアイデアを出して、ものを作って、webで公表するなんてできるわけないと思います。普通の人でもそれなりに生きていけるのが年功序列制度ではないでしょうか?正社員がすべて廃止されて、個人がフリーで生きて行かなくなると、社会は大変不安定化します。

永井:企業内でも、成果報酬制が採用されるなど、社員が自営業化しています。正社員であろうがなかろうが、雇用は不安定化しています。不安定化するというと悪いことのように聞こえますが、要は、機動力が高くなるということです。安定的で全体主義的な雇用形態は、工業社会に適応的ですが、情報社会には向いていません。

峯山:情報化社会が到来すると言っても、工業社会が全くなくなるわけではありません。日本は高い工業技術力によって世界的に認められてきました。会社内の技術の蓄積の重要性を考えて、年功序列制度と成果主義の可否について検討しなければいけません。

永井:私が言っている情報社会というのは、知識集約型の社会という意味で、業種は関係ありません。農業であれ、工業であれ、知への投資が重要な役割を果たすということです。正社員であれ、フリーターであれ、単純労働をやっている限りは、未来はありません。

今働いている、これから働こうとする若者には、自分がやっている、あるいはこれからやる仕事が、ロボットやコンピューターあるいは発展途上国の労働者にもできる仕事なのか、それとも自分でないとできないような仕事であるのか自問してほしいと思います。

峯山: 知識集約型の社会になると、誰でもできる単純労働しかできない人は生 きてはいけないということですね。厳しい結論のようですが、頭を使わ なければいけないという点で、より人間性を求められる社会ででもある と思います。私は大切は大学時代を遊ぶために使うのではなくて、自分 の人生の方向を考える有意義な時間にしていただきたいと思います。永井さん、長時間にわたるおつき合いありがとうございました。

柏崎原発7号機で放射能漏れです。
新潟県五泉市 2009年6月6日土曜日 19時34分 0.40μSv/hでした
出典:柏崎原発7号機で放射能漏れ 0.40μSv/h - Punker イェイ! イェイ!

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