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キュロスの教育(6)

第六巻 第一章

翌早朝、キュアクサレスの司令部に、同盟軍の全指揮官が集まった。盛装したキュアクサレスが王座に座り、口火を切って議論を開始した。ヒュルカニアの王、カドゥシオイ王、キュロスの親族と名乗ったメディアの若者アルタバゾス(ペルシア軽装歩兵指揮官アルタバゾスとは別人)、ゴブリュアスが遠征を続ける意思を示し、最後にキュロスが発言した「軍を解散すれば、勢力が弱まり敵から害を受けるかもしれない。しかし、冬がやってくる。飢えや寒さと戦いながら戦争は出来ないので解散すべきだ。それでも戦を続ける場合は、食料確保の為に多くの城砦を奪取し、また築く必要がある。それから、敵に最も近い守備については、自国が遠くにある私達が引き受けよう。お前達は隣接するアッシリアの土地を耕し、また、敵から遠い土地を所有すれば平和を楽しめるだろう」。皆が賛同し、ガダタスとゴブリュアスは城砦を作る事を約束。敵の城砦を破壊する機械はキュアクサレス、ガダタス、ゴブリュアス、ティグラネスが各一台、キュロスは二台用意することが決まった。

キュロスは物を運び込むのに適している健康な土地に駐屯地をつくり、糧秣の徴発にはその土地を知る者を同行させた。キュロスはこの行軍で食糧を集め、兵達を強化し、自分の部署を忘れないようにさせた。

それから、アッシリア脱走兵と捕虜達が「王は財と共にリュディアに向かって居る」と明かしたので、アッシリア王が反対勢力を糾合しに行った事にキュロスは気付き、鎌戦車を開発したり多くの駱駝を集めるなどして軍備を強化した。

また、リュディアにアラスパスを偵察者として送ろうと考えた。しかし、ブラダタスの王妃パンテイアの警護をしている彼は、彼女を愛してしまい、肉体的な交わりを求めて婦人を脅迫するまでに至っていた。キュロスは、パンテイアの宦官から話しを聞くと「力ずくにするな。説得できるのであれば私は妨げぬ」とアラスパスを笑い飛ばし、アルタバゾスとその宦官を彼の元に送った。

アラスパスは恥じ入りキュロスの罰を恐れて死にそうになったので、キュロスは彼を呼び寄せ宥めた「神々でさえ愛に負かされる。非常に賢明な者もそうだ。この件は私に責がある。お前を美女と閉じ込めたのだから」。アラスパスはキュロスの寛大さを述べ、また「この噂が広がれば、敵は私の不正を喜び、友人は殿下から逃げるように勧めましょう」と意見した。キュロスは喜び「私から逃れるふりをして敵中に潜り込めば、お前は敵に信用されるだろう。敵状を探り、私の所に戻ってきてくれ」。アラスパスは「今すぐ参ります」tと従者を連れ、企みに役立つ事を友に話してから、敵陣に向かった。

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パンテイアはアラスパスが去ったのを知ると、キュロスに使いを送り、アラスパスが敵に寝返ったのを悲しまないようにと気遣った後、夫に使いを送れば兵を率いて来てくれると述べた。かつて、アッシリア王は夫(スサの王アブラダタス)との間を引き裂こうとしたので、夫はアッシリアから寝返るはずだと言う。それを聞いてキュロスは彼女に夫へ使者を送るように指示した。アブラダタスは妻からの使者を受けると、1000騎の騎兵隊を率いてキュロスのもとにやって来て同盟を結んだ。また、キュロスに鎌戦車100台を引渡し、自分の戦車には4本の轅をつけ8頭の青銅鎧着用馬を繋いだ。

キュロスは8本の轅と頸木を取り付けた戦車に歩廊と胸壁を作り、二十名が搭乗できる3オルギュイア(約5.55m)の高さがある移動式塔を牛で容易に動かせるようにした。

第六巻 第2章

この間、インド王が友人として使者と財貨を送ってきた。彼らはキュロスの指示に従うよう命ぜられており、内3人に「アッシリアに同盟を結びに来た使者と見せかけて敵地に入り、情報収集してインド王と私に報告するよう」命令した。彼らはキュロスのもてなしを受けて翌日に出発した。

キュロスは、友人相互に競争心を植え付け、各々に最も優れた兵士である事を示すようにさせる為、狩猟や競技を行っては優れた者を表彰し、良き指揮官にも好意を示した。キュロスの配慮により、軍には楽しい気分が満ちていた。ペルシア騎兵隊はすでに1万騎に達し、キュロスの鎌戦車は100台、スサのアブラタダスの鎌戦車が100台、キュアクサレスもキュロスに説得されて鎌戦車を100台用意した。駱駝には1頭に2人の弓兵を配置。戦闘機器以外の用意が終わり、キュロス達はすでに勝利は手中にあると思っていた。

この時、インドの使者達がアッシリアから戻って来た。「全敵軍の指揮官にリュディアの王クロイソスが選ばれ、トラキアの佩刀兵、エジプト軍12万、キュプロス軍、全キリキア軍、両プリュギア軍、リュカオニア軍、カッパドキア軍、アラビア軍、フェニキア軍、バビュロン王率いるアッシリア軍、イオニア軍、アイオリス軍、ギリシア人の軍がバクトロス川付近に集結。進軍予定地はテュンプララで、軍の食糧はそこに運ぶ命令を受けている」報告を聞いた者は恐怖し、至る所で議論が交わされた。

キュロスはこれを見て指揮官達、意気阻喪な兵士達や勇猛心旺盛な兵士達を集めて彼らを鼓舞した。そして「お前達が恐れるクロイソスは、アッシリア軍の敗走を見ても援護に向かわなかった臆病者だ。しかも、独力で戦えないと考えて傭兵を雇っている。それでも我が軍が劣っていると思う者らがいるのであれば、敵軍へ放逐すべきだ」。ペルシア貴族クリュサンタスが「豊饒なアッシリアや貿易で富むリュディアを手に入れようと戦うのに、思い悩む事などありません」と述べると、同盟軍全てが賛同した。それからキュロスは「敵より先にテュンプララ到着する為、早く進撃する」事に皆の同意を得ると、進軍についての指示をし、キュロス自身は兵役年齢に達した鍛冶工、大工、靴修理工に道具を持たせて率いると述べた。「各自、準備の後に指揮官のもとへ集合し、中隊の指揮官は私の所に来て行軍位置を知るように」

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第六巻 第三章

キュロスは犠牲を捧げて吉兆を得ると、軍隊を率いて出発した。初日は近い所に野営した。

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先行した偵察隊の報告により敵が近いのを知ると、キュロスは兵達に朝食を取らせ、騎兵隊と歩兵隊と戦車隊の指揮官達、戦闘機械隊と荷馬車隊と天蓋馬車隊の隊長達を集めた。その時、探索に行っていた騎兵達が敵軍の捕虜を連れてきた。尋問すると「大軍の為に全てが物資不足なので、前哨を超えて集めに来ていた。約11パラサンゲス先に私達はおり、皆は敵が間近に迫っていると知り悲しんでいる。毎日戦列を組み、命令しているのはクロイソスとギリシア人と脱走者のメディア人だ」と言った。

次いで、偵察隊長からの伝令が届いた「平地に騎兵の大軍が出現。約30騎が先駆しており、見張り場所に居る10名の我が軍に向かってきております」。キュロスはヒュスタスパスに1000の騎兵を率いて進撃するように言い、側近の騎兵達にはすぐ駆けて行くように命じた。すると、彼らはアラスパスとその従者達に出会った。キュロスが大喜びで彼を歓迎したのを見て、事情を知らない部下達は唖然とした。「アラスパスは、敵状を知って我らに報告するよう、私によって送り出されたのだ。彼を称賛せよ。彼は罪に苦しみながらも我らの役に立とうと危険を冒したのだ」。

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アラスパスは皆の歓迎を受けた後、戦列を手助けしたことや、敵の戦い方の意図を詳しく述べた「クロイソスは我が軍の包囲を願っている。歩兵隊も騎兵隊も奥行き30列の隊形で約40スタディオン(約7400m)の幅に広がっており、エジプト兵達だけは故郷の慣習通りに奥行きと幅が100人ずつ合計1万人の連隊で戦列を組んでいる。」

キュロスはそれを聞き、兵達に命令した「馬の装備と自身の武器を手落ち無く入念に調べよ。明朝、私が犠牲を捧げている間に兵達と馬に朝食を取らせよ。クリュサンタスは右翼を、他の連隊長達も現在の場所を受け持て。中隊長と小隊長は各小隊が2列横隊になるようにせよ(各小隊24人編成)。鎧着用兵隊の後ろに軽装歩兵隊を、次いで弓兵隊、最後尾の後衛隊は、軟弱な兵士達に恐怖を与えよ」

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各隊はキュロスの指示を受け、準備を終えた後に夕食を取り、歩哨達を立てて眠りについた。

第六巻 第四章

翌朝、キュロスが犠牲を捧げている間、兵達は朝食を済ませて神酒を注ぎ、武装して馬にも鎧を着用させた。全軍隊が銅で輝き、紫紅色の光に包まれた。

アブラタダスが国の慣習通りに亜麻製の鎧を着用しようとした時、パンテイアが金の武具一式、赤紫色の外衣、兜の羽飾りを持ってきた。彼女は涙を隠しながら、驚く夫に武具を着せた。そして、夫が御者から手綱を受取った時パンテイアは言った「私の命よりも大事な人よ。私は勇敢な夫と共に大地に葬られる事を選びます。キュロス殿下はあなたの為に私を護って下さいました。そして、私を警護していたアラスパスが離反した時、彼よりも優れたあなたが来ましょうと、殿下に約束したのですよ」。アブラダタスは感慨を込めて祈りを捧げた「神よ、彼女に相応しい夫として、キュロス殿下に相応しい友としての態度を示させてください」。出発する夫をいつまでも追いかけるパンテイアを宦官と女中が天蓋馬車に乗せた。

キュロスが犠牲を捧げると吉兆を得た。全軍を配置した後、指揮官達を集めて皆を鼓舞した「私達は敵より遥かに多くの訓練積み、共に勝利を得ているが、敵は共に敗北を喫している。敵の未経験者達は皆が裏切り者である事を知っているが、私達は相互に信頼しあい助け合うので、心を一つにして戦う事ができる。さぁ、敵に前進しよう。武装した戦車隊で武装していない戦車隊へ、武装した騎兵隊で武装していない騎兵隊へ。エジプト兵達は私達の鎌戦車で踏み留まれても、騎兵隊と戦列と塔とは同時に戦えない」

そして最後に言った「犠牲の場所で祈った後、部署に戻り、部下達にこれらを思い起こさせよ。言動と表情で自分が恐れ知らずである事を示し、指揮官に相応しい人物である事を明らかにしろ」


文献:キュロスの教育 (西洋古典叢書)
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