第五巻 第一章
キュロスは、キュアクサレスに最も信頼されている者達に彼の取り分を保持するよう命じた。そして、自分の取り分については「喜んで受取るが、それらを必要とする人が使うように」と言った。すると、一人のメディア兵が「私に歌姫を一人与えて下さい」と申し出た。キュロスは彼に好意を示せる事を感謝して歌姫を与えた。「彼の私への感謝以上に、私はお前達を喜ばせることを熱望している」
キュロスは、年少の頃からの友人であるメディアのアラスパスを呼んだ。キュロスは祖父のアステュアゲス(メディアの先王)の所からペルシアへ帰国する時、自分の着ていたメディア風の服を脱いで、特に愛していたこの友人に与えたのだった(本P37参照)。この者にアブラダタスの王妃と天幕を見張るように命じた。彼女は、アッシリア軍陥落時に夫がバクトリア王へ同盟を結ぶ為の使者として赴いていたので、夫の留守中に捕まったのである。
アラスパスはキュロスに、アブラダタスの王妃がいかに美しいかを説き、是非ご覧になるようにと勧めた。だが、キュロスは「その気が無いのに見に行って彼女に口説かれると、私はすべき仕事を疎かにしかねない」と断った。アラスパスは笑って「人間の美が、自己意思に反して最善を尽くさせなくする事はありません。人は、生理的欲求には屈服し、法さえもそれを禁止して人を制することはできません。しかし、愛することは自由意志の問題であり、各人は自分の好みのものを愛し、また立派で優れた人たちはそれらを身から離す能力を持っています。私も彼女を本当に美しいと思いましたが、義務を果たしております」と述べた。キュロスは「それはお前が、愛が人を支配するよりも早くそこから去ったからだろう。美しい者達に目を留めないよう、私はお前に助言する」
「殿下、ご心配さならぬよう。私は彼女を見続けても、してはならない事は致しません」アラスパスが答えると、キュロスは「よく言ってくれた。では、彼女の保護と世話をしてくれ。彼女は時が来れば我々に役立ってくれるだろう」
しかし、アラスパスは彼女を世話していく中、愛に落ちてしまった。(第六巻 第一章に続く)
一方、キュロスはメディア軍と同盟軍の主要な指揮官達を召集し「お前達は私に敬意を示し一緒に出撃して夜の行軍をしてくれた。礼を言う。お前達が叔父上(メディアの王キュアクサレス)の所に戻っても、私は戻らずにヒュルカニア軍への信義を守り、ゴブリュアスを後悔させないよう努力する。何よりも重要なのは、私が神々を畏れてこの幸運を顧みずに戻っていくのを恥じる事なのだ。お前達も思い通りの行動をするがよい」と述べた。
すると、皆が留まる意を示した。「神よ、彼らの私への敬意よりも、私が彼らに好意を示す方が勝っているようにして下さい」キュロスは祈り、そして命令を下した。「ペルシア兵達には天幕を分けるように。他の兵達は歩哨配置後に自分らの配慮をしろ。兵站責任者達は、ペルシア兵達が軍事以外の事に気を使う事がないよう、必要な全てを準備せよ」。
第五巻 第2章
早朝、キュロスは約2000の騎兵隊と同数のその従者、その他の隊を引き連れ、ゴブリュアスの領地へ向かった。翌日夕方には到着し、堅固な城砦、防衛の為の装備、多数の牛や羊をそこで目にした。
ゴブリュアスはキュロスに使いを送り、城砦内外を調査するよう依頼してきた。キュロス自身が城砦への進入可能箇所を外部から調査したが、どこも堅固である事が分かり、また、内部調査隊からは、全内部者が一世代飢えない位の食糧がある、と報告を受けた。
ゴブリュアスが部下達と共にキュロスの所にやって来た。食糧を持って出た者らは、キュロス達のための夕食を作り始めた。全員が城砦外に出ると、ゴブリュアスがキュロスに最も安全と思う方法で中に入るよう提案したので、キュロスは斥候と一隊を先に送り込んで警戒した後に、入口の戸を開けたまま中に入り、友人と指揮官達を呼び入れた。ゴブリュアスはそこにあらゆる財宝を持参して、最後に長身で美しい自分の娘を連れて来た。そしてキュロスに再度復讐のお願いをした。
キュロスは再びそれを果たす事を確約し、それから「受取った財宝は、この娘と結婚する男に与え、その男は私と誠実さを競い合う我が友人達の誰かになるだろう」と述べた。
ゴブリュアスが「是非、殿下の友人達に会いたい」と言ったので、キュロスは彼を陣営内での食事に招待した。
ゴブリュアスは、キュロス達の食事の粗末さを見て、自分らのほうが洗練されていると思った。しかし、食事中の兵士達が思慮深く節度のあるものだったので、考えを改めた。飲食の為に騒ぐのは恥と心得、また、交わされる冗談は放漫や無作法が無く誰をも傷つけることの無い楽しいものであるし、未来の同盟者達をできるだけ勇敢な兵士にするのが最上の持て成しと見なしているのを知り、感嘆した。「私達は財貨の為に骨を折るが、殿下方は、ご自身を優れた者にする事に尽力されている」。ゴブリュアスが居住に戻ろうとした時、キュロスは「明朝に騎兵隊を率いてきて、お前の軍を見学させてくれ。それから、領地案内をしてくれ」と依頼した。
夜が明けると、ゴブリュアスは騎兵隊を率いて現われ、キュロスを先導した。途中、キュロスはヒュルカニア王とゴブリュアスを呼び寄せて、他にも居るだろうアッシリア王の敵対者を聞きだすと、彼らと合流できないかを協議した。そして「今、私達が敵に姿を見せれば、敵は敗走と恐怖を思い起こし、それは戦に有利に働く。敵は私達に負ける前と比べてはるかに小数で弱体化している。お前の兵力を過小評価するな。勝者に従う従者はより勇敢になるものなのだ。さあ、我らを先導してくれ」と、合流の為とはいえ敵の本拠地へ向かう事を心配したゴブリュアスを励まし、バビュロンへ向かった。
第五巻 第三章
彼らは4日後、越境して敵地に入った。キュロスは戦列を配置し、騎兵には武器保持者を殺害するよう、又、捕獲した家畜を持ってくるように指示した。多くの家畜が集まると、皆を呼んで話し合い、神々への物と軍への補充分を取り分けた残りをゴブリュアスに贈る事を決めた。
それから、キュロス達はバビュロンに進軍した。アッシリア軍が攻撃して来ないので、キュロスはゴブリュアスに「アッシリア王が国防の為に戦うのであれば、私(ゴブリュアス)も共に戦おう。だが、そうしないのであれば私は勝者に従わねばならぬ」とアッシリア王に言うように指示。ゴブリュアスがそのようにすると、アッシリア王は「戦おうと思うのなら30日後に来い」と返事をよこした。キュロスはこれを聞いて軍を後退させた。
そしてキュロスは、ゴブリュアスの知り合いであるアッシリア王に去勢されたという太守ガダタスを同盟者にするために、ゴブリュアスを彼の所に送った。ガダタスは喜んでキュロスの全提案を受け入れ、★敵を欺き城砦を手に入れるために必要な約束をし、ゴブリュアスはキュロスにそれらを報告した。そして計画通りに事が進められた。
ガダタスは、アッシリアがヒュルカニア軍やサカイ軍から領地を防衛する為に築いた城砦を手に入れると、到着したキュロスを喜んで迎え入れた。そして城砦はアッシリアに対する防護壁となるよう、共同で占拠する事が、皆との協議で決められた。
この戦の結果、キュロスの同盟軍にはカドゥシオイ軽装歩兵約2万と騎兵4千、サカイ弓兵約1万と騎馬弓兵約2千が加わり、ヒュルカニア騎兵も約2千に増強された。
キュロスが留まって城砦の管理をしていると、ガダタスが来て「アッシリア王が自分の領地に攻め込む準備をしているので防衛の為に戻る」事を知らせに来た。ガダタスが出発すると、キュロスは同盟軍の全指揮官を召集して「ガダタスの示してくれた好意に応えよう」と演説し皆の同意を得、彼の援軍として進軍する為に各指示を出し、指揮官名を呼んで各々が率いる隊を任命した。
それから、「全軍は沈黙して行進するように(夜に備えて耳で行動できるように慣らしておき、これにより夜間の混乱を防ぐ)。また、夜出発する場合、夜の見張り時間は短く、人数は多くせよ(見張りによる長い不眠で体調を崩すのを防ぐ為)。出発時間は角笛で合図。先頭を行く者は背後の者に「ついて来るように」との言葉を絶えず伝達せよ」と命令した。
兵達は天幕に戻る時、キュロスが記憶に優れ、命令を与える全ての者に名前を呼んで指示を下した事を話し合った。
兵達は食事を取り、歩哨を立て、準備を整えて就寝した。真夜中に角笛の合図が鳴ると、クリュサンタスが鎧着用兵隊を率いて現われた。少数の軽装歩兵を先行させると、キュロスは彼に先導者達を与えてゆっくり進むように命じて遅れてくる兵には使いを出し、全兵士が路上に出るとクリュサンタスに急げと伝令した。キュロスは秩序正しく黙って行軍する隊を称賛し、動揺している兵が居ればそれを鎮める努力をした。夜明け、カドゥシオイ軍の歩兵隊が最後尾を進んでいたので、同軍騎兵隊を護衛につけた。また、敵軍が前方に居たので、常に追跡隊と側に留まる隊を定めて、全隊形を維持しつつ、キュロスは駆け回って軍を見守り、必要な物があれば兵に供給した。
第五巻 第四章
ガダタスの騎兵隊の一人が、彼の地位を奪おうとしてアッシリア王に内通し、信頼を得るために自分の領地の城砦と財貨をアッシリア王に引き渡した。王は密告を受けると直ちに城砦を受取り、大部隊の騎兵と戦車を近辺の村落に待ち伏せさせた。王の命令で少数の兵が逃走すると、ガダタスの斥候はそれに気付いて逃走兵を追跡し、ガダタスもそれを追った。しかし、アッシリア騎兵隊がガダタスを捕まえに飛び出て来たので、罠に気付いたガダタスと部下は逃走。行軍ですでに疲弊していたガダタス騎兵隊は、キュロスが軍隊を率いて来ているのを目にして、喜び勇んで駆け込んだ。
キュロスは事態を把握すると、戦列を組んで敵に向かっていった。敵が逃げ出したので、追跡担当の騎兵隊が追跡を開始し、ガダタスに陰謀を企んだ男と敵を殺して戦車を捕獲した。アッシリア歩兵隊は城砦に、アッシリア王と他の兵士達は都城に逃走すると、キュロスはガダタスの領地に戻り、負傷したガダタスを見舞った。
ガダタスが深い感謝を述べると「驚嘆すべきは、斯くも多くの兵士達(同盟軍全員)がお前の為に尽力している事だ」とキュロスが返した。ガダタスは感慨深く祈ると、全軍隊をもてなした。
カドゥシオイ王は後衛を務めて追跡には加わらなかった。そして功を急ぎ、キュロスに無断でバビュロンへの地域に侵入した。その時、戦列を組んだアッシリア王と遭遇し、指揮官と多くの兵が殺された。生存者が帰陣し、キュロスは事件を知ると、カドゥシオイ兵達を迎えに行って、負傷兵をガダタスの所に送り、ペルシア貴族を呼んで彼らへの食事の手配を頼んでから、衛兵を連れ立ち負傷者の手当てに回った。
翌朝、キュロスはカドゥシオイ全軍と、他軍の指揮官達を召集し「この過ちから学ぶことは、原則として敵の兵力よりも弱い兵力を我が軍から分割しないようにするという事だ。
それから、連絡を取らずに出陣した者は孤立同様で危険である。救援兵力所有者と連絡を取り合って進軍するようにしよう」と言った。そして、朝食を終えて報復に向かう時、キュロスは新しいカドゥシオイ軍指揮官を自分の側で指揮させて、彼らに勇気が出るように配慮した。敵地である事件現場に到着すると、戦死者を埋葬し、土地を荒らし、食糧を奪った。そしてガダタスの領地に戻った。
それからキュロスは、バビュロン近くに住む離反した耕作者達の安全を確保する為に、自分と離反者からアッシリア王に「互いに相手の耕作者達には害を与えず、武器携帯者達が戦争をする」という提案を送り、アッシリア王は兵達に説得されてそれに同意し協定を結んだ。
キュロスが出発の準備を整えた時、ガダタスが来て多くの財産と馬をキュロスに贈り「子が居ない、また冤罪を被り去勢させられた事で自分が死ねば一族が断絶する」事などを悲嘆した。キュロスは彼を哀れみ「馬はお前の役に立つ為に、また騎兵隊の充実の為に頂こう。財貨は私が返礼できるようになるまでお前が保管してくれ」と言った。ガダタスは「敵の最大都城バビロン近くに領地があるので、殿下が去ると追求を受ける」とそれを断ると、キュロスは、私が守備隊で城砦を守っている間に城砦内の荷造りを済ませ、一緒に出撃するようにと、ガダタスに勧めた。ガダタスは荷物を纏め、信頼していない部下には兄弟や家族を連れて行くよう強制した。キュロスはガダタスを側近に加えて進軍した。
城砦の側を通る時、奇襲に不利な隊形での行軍を避ける為に城砦への距離が行軍している長さよりも近くならないように、また、都城の側を通過する間は後衛部隊を強化した。
アッシリアとメディアの境界に着くと、その3つの城砦の内の一番弱い城砦を武力で奪い、一つは脅迫で、一つはガダタスが説得して守備隊に引き渡させた。
文献:キュロスの教育 (西洋古典叢書)
第五巻 第五章
キュロスはキュアクサレスに、これからの事について助言を求める為に使者を送り、その間、彼の為に立派な天幕を用意した。
キュアクサレスはそれを聞くと、援軍として来ていた4万人の弓兵と軽装歩兵のペルシア軍をキュロスの元に向かわせ、自分は翌日にメディア騎兵隊を率いて出発した。キュロスは知らせを受けて全軍の優れた騎兵隊を率いてキュアクサレスを出迎え、彼に兵力を示した。キュアクサレスは自分の従者達が弱小である事を恥じ、悲しみのあまり、下馬して近づいてきたキュロスに背を向け、慣例の接吻を拒んで涙を流した。
キュロスは皆に下がって休息するように命じ、キュアクサレスの右手を取り木陰に連れて行くと、メディアの敷物を敷いて彼を座らせ、自分も側に座り「なぜ怒っているのか」の理由を尋ねた。キュアクサレスは「お前は私より偉大であり、部下であるメディア兵達が私をおざなりにし、自分に害を加え得るほど強力になって居るからだ」と激しく悲涙した。キュロスは目に涙を溜めてそれを否定し、そう受け止められた悲しみを訴え「全ては叔父上に好意を示す為にした事です」と、今までの経緯を共に検証する事を提案し、それを証明した。
キュアクサレスは言った「希望する兵士達を連れて行けと言えば、私一人を残して全兵力を率いていった。我が兵力で獲得した物を私に齎し、領土を拡大している。私はこれらの好意を女のように甘受しているのだ。皆はお前を英雄とし、私を支配者に相応しくないと見ているだろう。私から名声や栄誉を奪わないでくれ。私がメディア人を支配しているのは、彼らが私を彼らより優れていると評価してくれているからだ」キュロスは言葉を遮り、「神々にかけまして、叔父上、以前私から好意を受けたと考えるのであれば、叔父上も私に好意を示して、非難を止めて愛情に応えていただき、私を支援者と見做してください。そうでなければ私を非難して下さい」キュアクサレスはキュロスが正しいと思い、接吻を受け入れた。二人を心配していた全兵士が、それを見て、喜び快活になった。
キュロスとキュアクサレスは馬に乗り先頭を進んだ。キュロスが合図したので、キュアクサレスにはメディア兵達が従った。陣営に付くと、キュロスに促されたメディア兵達の多くがキュアクサレスに贈り物を届けたので「兵達は自分に前と変わらぬ気持ちを持ってくれている」と考えを変えた。キュアクサレスはキュロスを夕食に誘ったが、キュロスは私達だけが快楽を求めていると兵士達に思われたら軍隊の指揮が下がると考えてそれを断り、長い道程を来たキュアクサレスにはすぐに食事をとるように勧め、また、敬意を表わしに来る者に食事を提供すれば信頼感を得られると助言した。そして「明朝、主要な指揮官達がここに集まり、叔父上と今後について相談するので、遠征を続けるまたは解散するのが良いかを協議させて下さい」と許可を求め、それを得てから仕事に戻った。
キュロスは食後、友人の中で最も優れた者達を集めて「同盟軍が留まれば、戦をするにも説得するにも有利に働く。だから、彼らが留まるようにするのが私とお前達の仕事だ」と述べた。
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